共に野球に打ち込める仲間を見つけた悠だが、何をやろうと解決しないあの問題。変化球の事である。こればかりは翔にも何も出来ない。
ましてや、悠の心中を察していないため必然的に何も出来ないのだ。
「まぁ、今は野球を楽しむか・・・」
その通りである。幾ら悩みがあろうと一番大事であり、一番基本的である{楽しみ}というものを忘れていては話にならない。

悠が今一度野球の楽しさを再確認していた頃、監督の茂木は夏の大会のメンバーを練っていた。少々、早いようにも思えるが「早いに越した事は無い!」との考えのためである。
オーダーを組んでいると、打者人には強力なものを感じるが投手陣はイマイチパッとしない。この投手陣の甘さが後々、面倒な事になるのは百戦錬磨の茂木はしっかりと理解している。しかし、今の状況ではしっかりと抑えられる投手がいないのである。茂木や悩む

「一年から探すか―――――」
こう発したものの、茂木の中では誰一人として期待はしていなかった。無論、悠もそうである。しかし、一年を一度に見るのには一年対一年の試合を行うのがちょうど良い。そう
感じた茂木はさっそく明日に向け、チームを考えた。

翌日

「全員集合!!」
この言葉に部員が反応し、茂木の周りに集まる。

「いきなりではあるが、これより一年Aチーム対一年Bチームの試合を行う。チーム分けに関しては予め、私が決めておいた。Aチーム、ピッチャー高根(悠)。・・・・・Bチームライト安田。以上だ。名前を呼ばれなかった奴らはベンチで皆を応援してろ。尚、試合は5回までとする。以上、試合開始!」
悠は無事に、先発投手となれたが翔の名前が呼ばれなかった。翔の腕前はこの程度なのか。
とりあえず、茂木のいきなりの言葉にとまどいを隠せない一年部員。試合を行う理由すら聞かされないままの試合。疑問は抱きつつも、勘の良い数名は試合の理由を理解している。だが、悠と翔はさっぱり
理解していない。

「はて、監督は何を考えている」
このありさまである。

Bチームの先行で試合は始まった。
「一番 レフト 三田」

脚が並より上なだけで、他に気をつけるような点は無い打者。悠は三田を完全に見下しており簡単に討ち取れると思っている。
―――――その考え通り三田を討ち取った。
一球目、外角に低めにストレート。三田はピクリとも動かずストライク。
二球目、内角低めにストレート。これも一球目同様、ピクリとも動かずストライクとなる。
三球目、三田にはストレートだけで良いと思い、ど真ん中にストレート。ミットにボールが到達すると、綺麗な音がグラウンドを包む。見事に空振りを取り三球三振でしとめた。

「二番 ファースト 林」

パワー、スピード共に平均以上のものはある。それに以上にファールを打つのが上手い打者であり狙い球をしっかりと見極めて打ちに行く打者である。

「三田をストレート三球でしとめたからこの空気を壊したくないな。相手の出かたを見るか」
一球目は様子見として、外角高めにストレート。これを林は振らず、ボールとなる。2球目も同じコースに投げたが林は手を出し一塁ゴロになりアウト。打ってくるとは思わなかった悠は驚いたがアウトを稼げたのでどうやら儲けを感じたようだ。
三番のキャッチャー石井も簡単に打ち取りBチームの攻撃は終わった。悠は危なげなくこの回を終えたが何か心に引っ掛かっているようだ・・・。

一回裏 Aチームの攻撃。Bチーム先発の沢登の投球の前にあっけなく終わった。だが甘い球があったのも打者各々はしっかりとわかっている。

二回表 Bチームの攻撃。
[四番センター 剣]
打撃だけいえば文句ない選手だが他の部分は全く持って駄目である。無駄な体重も多いために走力も当然ながら駄目である。

「バットに当てられちゃ厄介だからな。とりあえず内角の低めにでも投げるか」
自分の思い通りの内角低めにまず投げ、ストライク。この時剣は打つそぶりを見せたが打ちにはいかなかった。この球を打ったところで結果はたかがしれてると考えたためであろう。

ストライクを取れた事により楽な組み立てが出きると思い、二球目にはこの試合初めてのスライダーを投げた。悠にとって決め球であり唯一の変化球であるこの球種。
スライダーが頭に無かった剣はピクリとも動かなかった。いや、動けなかった。これでカウントは2ストライクとなり大分余裕が出来た。
一つ、大きな深呼吸をし、悠は渾身の力を込めたストレートを三振にしとめた三田の時と同様にど真ん中に投じた。剣は動けず三球三振の三振。
その後も悠は各打者を打ち取り結局、5回全てを投げ被安打0、四死球2という結果で終えた。試合の方もBチーム先発の沢登が時おり投じる甘い球をしっかりとらえ7点を奪い、
結果的に7-0と勝利した。
この結果が茂木の目にどう映ったのか。悠は使えるのか使えないのか―――――

試合後の悠は独りで考え事をしていた。
「今日の試合、自分でも面白いように打ち取れたな。この前、先輩たちを相手した時は滅多打ちにされたのに。だけど今回は・・・。変化球もスライダーだけだったし、あの時
の俺と今日の俺はそこまで変わっていない。」
何がどうなってるのかわからず悩んでいる悠にお決まりのように翔が現れた。悠は翔に今日の事、あの事を全て話した。

「それはただ先輩たちの力が凄いだけの話だけじゃないかな。だって悠を打った先輩たちなんて滅茶苦茶凄いんだぜ?むしろ打たれるのが当然だよ。それに変化球で悩んでいるみたいだけど
今焦って別のものを取得する必要もないと思うけど。現に今日はスライダーしか変化球がないのに打ち取れたじゃないか。相手が同じ一年生だったってのも有るけど、俺の目からみて
悠の球は中々打てないよ」
悠はこの言葉を信用する事にした。悠自身も自然とこの言葉を納得したためである。変化球も現段階ではスライダーだけでいく事もここで決意。勿論、もっと上を目指すとなれば話し
は別だが。これで悠の悩みは解決。翔に話してもどうもならないと考えていたが、その翔に助けて貰った悠は感謝ばかりである。これで入部したての頃に出来た【壁】は見事に消えた。
これで今後、悠は大きく変わりそうである。さて、後日発表される夏の大会のメンバーに入っているのか。それとも入っていないのか・・。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送